「よかったですね」

先輩が結婚した。

 


学生時代私に、アッサーは全てが65点、と言い放った先輩が。

 


先日色々あって数人で会う機会があり、歩いている時2人になったタイミングにそっと、結婚するねん、という6文字が降ってきた。

 


転がっていった6文字を目で追いながら私は、おめでとうございます、と返せず、あ、よかったです、ね。ともごもご言った。

 


先輩はありがとう、と言ったけど、若干異様な空気が流れた。

こういう瞬間の気持ちの機微にそろそろ向き合わなければいけない。

 


6年前の一言にいつまでも固執して昇華出来ない私と、結婚する先輩。

おめでとうと言えなかった私と、ありがとうと言った先輩。

 


人は、意思疎通の手段の一つとして会話する。会話は言葉で成り立つ。言葉は気持ちを孕んでいるから、必ずズレはある、そのズレに、先に気づいた方が少し多く傷つく。

 


だけど伝えることに背を向けることをやめなければ6年前の自分から脱却出来ない。ズレを最小限にする方法と手順は?

ああ楽したい。肩肘張らずいきたい。湿り気のある話などしたくない。好きな音楽だけ浴びていたい。(というのが、最近の「モード」である。)

とか近頃はそのようなことを、食欲旺盛な身体と足りない頭で考えている。

 


先輩達と会った日の宴の後、悶々とした帰り道、男性に道を聞かれた。どうやら酔っ払っている。近くにあるはずのバーを探していると言う。

 


寧ろ教えてくれ、と思った。

 


私はどこに行くべきなのか、突き進むべきか戻るべきか、はたまた方向転換すべきなのか、教えてくれよ、

と思いながらスマホを取り出した。

 

開いたGoogleマップには迷路のように複雑怪奇な路地達が蔓延っていた。